第8回 いっしょに学ぼう会
~公的扶助制度を利用せず、生き抜くために~
3.困難に打ち勝った女性達の生き方と60代からの人生の楽しみ方
元西部健康福祉センター 女性相談員 弓桁 淑子
平成8年から12年間、私は西部健康福祉センターと市で女性相談員の仕事を経験しました。
女性相談室に訪れる方は、年齢も悩みも様々です。夫婦間の問題、子どもの問題、嫁姑の問題、健康、就職、借金、再婚相手から子への虐待、近所のトラブルなどいろいろな悩みをかかえて訪れます。女性相談員は、引出しいっぱいの知恵と知識をもって、悩む女性の訴えを傾聴し、共感し、助言・指導にあたることが求められます。
平成13年4月にDV法(ドメスティックバイオレンスを略してDVといいます。配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)が公布されました。
DV法は、今まで家庭内に潜在していた女性への暴力について、女性の人権擁護と男女平等の実現を図るために、夫やパートナーからの暴力の防止、及び被害者の保護救済を目的として、国際的な流れと、被害者の声を受けて、超党派の女性議員による議員立法で成立した法律です。
夫や子ども、恋人の暴力から逃れて、警察や、市や県の女性相談室に助けを求め、着の身着のまま一時保護所に落着いた女性たちは、しばらくそこで心身の健康を取りもどして、それから自立に向けて活動を始めます。
一時保護所は、保護されている間の食事や宿泊は無料ですが、その間に病気になって医療機関にかかる場合は、相談者が住んでいた市町村が負担します。
当時は、DV、あるいは何らかの事情で逃げてきた女性に対し、どこもなかなか生活保護をつけてはくれませんでした。担当していた6市21町村のうち、女性保護に対して一番理解し、協力してくれたのが磐田市でした。
そして、平成15年には、県西部では浜松市に次いで2番目に、磐田市に女性相談室が設置されました。
暴力被害者の大半は、何も持たず、もちろんお金もありません。子ども達はお腹をすかして泣いています。磐田市の職員は、そういう親子に身銭を切って、食事を用意してくださったり、社会福祉協議会では急遽、当座の生活費を貸してくれたこともありました。
ここで、繰り返される夫の暴力で、子どもを連れて逃げてきた女性、突然の解雇でマンションのローンを払えなくなったという女性、二人は生活保護を受けずに頑張って自身の生活苦を切り開いたという事例が紹介されました。
大変心打たれる内容でしたが、個人が特定できてはいけませんので、記録上は上記のように省略させていただきました。
12年間女性相談員の仕事をさせていただいて、何千人という女性と出会い、彼女達の過酷な人生体験や訴えを聴きました。それでも一生懸命生きている姿に、共に涙したり、良い結果になれば一緒に喜んだり、いつも祈り心で見守っていました。そして彼女たちから、沢山のことを学びました。
2年前に相談員の仕事を辞めて61歳になった私は、これから自身の人生をどう生きていこうかと考えました。昭和21年11月8日生まれの私が、今日まで生かされてきた日数は、23,311日。あと、これまでの1/3も生きていられるかどうかわかりません。そう思うと一日一日がとても貴重な時間で、自分の命がいとおしくなります。64年を経た弓桁淑子という命、年を重ね、肉体はどんどん衰えていきます。その分、残された時間は、内面から磨くことに使おうと決めました。
私の母は今年88歳になりましたが、66歳で未亡人になった年から、近所のお年寄りを自宅に招き、お茶菓子やお昼のお弁当を用意して、今のふれあいサロンのようなお楽しみ会を、80歳まで毎月開いていました。浜松市の区画整理で引越しせざるを得なくなり、磐田の私の家に来て8年になります。当初は、生活環境が変わったことと、生甲斐がなくなったので、認知症のようにになって、裸足で家を飛び出したり、おかしな事を言ったりしました。上岡田医院の先生に認知症が進まないお薬を処方していただいてからは、とても落着いて、朝夕般若心経を写経し、昼間はお雑巾を縫って、「たとえ年をとっても、今私にできることで人様のお役に立っていたい。死ぬときに後悔のない人生を送りたい。」と、可愛いい笑顔で毎日とても平安に暮らしています。私も母のような年を重ねたいと思います。
先ほどの支店長さんのお話のとおり、何をするにもお金が必要です。私は、夫の転勤に伴い、静岡市在宅重度心身障害児家庭奉仕員、保育園保母、幼稚園教諭、東海福祉専門学校、そして女性相談員と、様々な福祉の仕事を体験してきましたが、その殆どが非常勤嘱託職員でしたので、今いただいている厚生年金と私学共済を合わせても2カ月に1回、58,033円、1か月にすると29,016円とわずかです。ある先輩に「これしかもらえない!」と愚痴をいうと、「そんなこと言ってはいけません。これだけあれば、1週間に1度、籠いっぱいの食料品が買えます!」と諭されました。
さすが先輩はいいこと言うなあと感心して、それからは58,000円の年金を心から感謝していただいています。先日新聞を読んでいましたら『年金生活。月15万円で幸せに暮す 少ない年金額でも赤字を出さない!』と言う本が目に飛び込んできました。早速購入して参考にしています。
62歳の時、いただいた年金を貯めて、浜松市にある調理製菓専門学校に1年間通い、製菓衛生師の資格を取りました。そして、昨年からハーブ研究家の友人と二人で、豊岡東公民館主催「フレッシュハーブティ&手づくりケーキ&おしゃべりサロン」という講座を始めました。年を重ねて、新しい知恵や知識を得るには自分の持てるものを提供し、サロンに集った皆さんから、お一人お一人の人生の尊い体験を聞かせていただくのが一番です。
60歳を過ぎると、若い時と違って、広範囲の行動はできないけれど、地域活動で得られる楽しみや生甲斐が与えられます。
同じ地域に暮らす先輩の皆さんから「ふれあいサロンを立ち上げるので一緒に2ってみない?」とお誘いを受けました。早速仲間にいれていただき、昨年4月より、毎月2回40代から80代の会員の皆さんと一緒に、サロン活動を楽しんでいます。
また、こんな楽しみもあります。以前、磐田市シルバー人材センターに依頼して、庭の木を切っていただきました。二人の男性会員が、手際よく木を整理してくださり、おかげで庭はすっきりしました。お二人の仕事がとても楽しそうだったので、私もシルバー人材センターをのぞいてみたくなり、早速登録をしました。最初の仕事は7月11日の参議院議員選挙の会場受付のお手伝でした。投票にいらした何人かの懐かしい人とも会うことができ、市の職員の皆さんと一緒に仕事ができて、初めてのシルバー人材の体験はとても楽しかったです。
そして、8月17日に送られてきた「配分金明細書」は、年金のお知らせとともに、嬉しいハガキでした。
磐田市シルバー人材センターの会員は865人、平均年齢は男性71.3歳、女性71.6歳、80歳以上の会員が58人いらして、会員の最高齢は、男性86歳、女性90歳だそうです。機関紙の発行、手芸・料理・介護などの講習会や親睦旅行などのお楽しみもあります。
健康で時間があったら、シルバー人材センターに登録して、自分に出来そうな仕事をやってみることも、新しい体験、新しい仲間と出会うことができる良い機会だと思います。
これから向かえる老いを、豊かに、楽しく過ごすためには、隣近所、趣味を同じくする人、仕事仲間が、互いに声を掛け合い、うれしい時間を共有してくことが大切だと思います。老いていくことに不安を持つより、今日の出会いに感謝して、共に支えあい、励ましあって、楽しく年を重ねていきたいと思います。
取りとめのない話になってしまいましたが、以上が今の、そしてこれからの、私のお楽しみ人生です。ありがとうございました。